結論、2026年はSalesforce・Slackをはじめ主要SaaSの値上げが相次いでいて、その理由の多くが「AI機能を標準搭載したから」です。まずは要点から。
- Salesforceは2026年8月1日付でSales Cloud・Service Cloudなど主要エディションを平均6%値上げ。SlackのBusiness+プランも月額1,600円から1,920円に上がりました
- 値上げの共通理由は「AI機能の強化」。SlackはAIエージェント機能を全有料プランに標準搭載し、Salesforceも「Agentforce」を組み込んだ結果、コストの一部が既存ユーザーの月額に転嫁されています
- 使っていないAI機能の分まで払い続けるか、契約更新のタイミングで自社の使い方を棚卸しするか——判断のポイントを整理します
ただし、値上げそのものより見落としやすい注意点が1つあります。それは後半で説明します。
「また値上げの通知が来た」「気づいたら契約時の見積もりより月額が2〜3割増えている」——SaaSを使っている中小企業の経営者・総務担当者なら、一度は感じたことがあるのではないでしょうか。
これは体感の問題ではなく、実際にここ1年で起きている構造変化です。SalesforceやSlack、Google Workspaceなど、業務の基盤として定着したSaaSが軒並み値上げに動いています。そして共通する理由が「AI機能を組み込んだから」というものです。この記事では、値上げの実態と背景、そして「払い続ける」「乗り換える」「自社専用のシステムに切り替える」という3つの選択肢をどう判断すればよいかを整理します。
SaaSの値上げは本当に増えているのか?
2026年は主要SaaSの値上げが相次いでいる年で、値上げの理由の多くが「AI機能の標準搭載」に集約されています。
具体的な事例を見てみましょう。Salesforceは2026年8月1日付で、Sales CloudやService Cloudなどのエンタープライズ版・アンリミテッド版の価格を平均6%値上げすると発表しました。値上げの理由として同社が挙げているのは「AI機能の強化と顧客への価値提供の継続的なコミットメント」です。
同時期にSlackも動きました。2026年3月31日、Salesforce傘下のSlackは全有料プランにAI機能を標準搭載し、「Slackbot」をAIエージェントへと進化させました。Business+プラン以上なら追加コストなしでAgentforceのAIエージェントも使えるようになった一方、Business+の月額料金自体は1,600円から1,920円へと値上げされています。
Googleも同様の動きを見せています。2026年1月から、生成AI「Gemini」の標準搭載に伴い、Google Workspaceの全エディションを対象とした価格改定が実施されました。
これらに共通するのは、「AI機能を使うかどうかにかかわらず、契約している全ユーザーの月額に値上げ分が乗る」という構造です。会計ソフトも例外ではなく、自動仕訳・AI議事録・チャンネル要約などAI機能の搭載が2026年のSaaS業界の標準になりつつあり、それに伴う価格改定も業界全体で進んでいます。
御社が契約しているSaaSの請求額が、導入時の見積もりより明らかに増えているなら、それは体感ではなく実際に起きている値上げの結果である可能性が高い、というのがこのセクションの結論です。
なぜSaaSはAI機能を「オプション」ではなく「標準搭載」にするのか?
AI機能を全ユーザーの標準搭載にすることで、SaaS企業は顧客基盤全体にAIの利用データを蓄積し、囲い込みを強化する狙いがあります。
背景には、SaaS業界そのものが直面している厳しい競争環境があります。2026年2月の第1週、AnthropicがリリースしたClaude CodeやClaude Coworkなど一連のAIツールをきっかけに、SaaS企業の株価が合計で約1兆ドル(約150兆円)相当下落するという出来事が起きました。「AIエージェントが定型業務を代替すれば、月額数千円のSaaSは不要になるのではないか」という懸念が投資家の間で広がったためです。
この文脈で理解すると、SaaS各社がAI機能を「有料オプション」ではなく「標準搭載」にする理由が見えてきます。ユーザーがAIエージェントを使うために別のツールへ乗り換えるのではなく、既存のSaaS内でAIを使い続けてもらう方が解約を防げるからです。実際、Salesforceは新規顧客に対してSlackを無償で標準提供する施策も打ち出しており、「AI機能をきっかけに顧客基盤へ深く入り込む」戦略が業界全体で進んでいます。
一方で、実際にSaaSを完全に代替するところまでAIエージェントが到達しているかというと、技術面・組織面・人材面でまだ相当の距離があるのが実情です。グローバルなエージェントAI市場は2026年に85億ドル規模、2030年には350億ドルへ成長する見通しですが、「SaaSが明日から不要になる」という段階ではありません。
つまり、値上げの背景にあるのは「AI競争に乗り遅れたくないSaaS企業の防衛戦略」であり、御社が実際にそのAI機能を使っているかどうかとは無関係に、値上げのコストは請求書に反映されます。ここが、次のセクションで説明する「棚卸し」が必要になる理由です。
値上げの通知が来たら、まず何を確認すればいい?
契約更新の前に、AI機能を含めた利用実態の棚卸しを行い、「使っている機能」と「払っている金額」が見合っているかを確認するのが最初の一歩です。
SaaSの価格改定に関する国内調査では、値上げ幅(金額)そのものへの不満は強い一方で、実際の解約率は8.0%にとどまるという結果が出ています。逆に解約の引き金になりやすいのは「説明不足」「通知方法」「タイミング」といった伝え方の問題です。つまり多くの企業は、値上げに気づいても「仕方ない」とそのまま契約を継続してしまっているのが実態です。
ここで一度立ち止まって確認したいのが、次の3点です。
- AI機能を実際に使っているか: 標準搭載されたAIエージェントやAI議事録機能を、社内の誰かが日常的に使っているか。使っていないなら、値上げ分は純粋なコスト増になっている
- 未使用ライセンス・重複契約がないか: 退職者や異動者のアカウントが残っていないか、似た機能を持つ複数のSaaSを並行契約していないか
- 契約更新までの期間: 多くのSaaSは契約更新のタイミングで解約・プラン変更の判断がしやすくなる。更新の2週間〜1ヶ月前から利用実態を洗い出しておくと交渉や乗り換えの選択肢が広がる
中小企業のSaaS管理では、最低でも年1回、できれば半期に1回の棚卸しが推奨されています。特に人事異動が発生しやすい年度末・期末は棚卸しの好機です。棚卸しをしてみると、「このSaaSの有料プランに含まれる機能と、別のツールの機能が完全に重複していた」という発見は珍しくありません。
御社の場合も、まずは今契約しているSaaSの請求書を1年前と比べてみることから始めるのが現実的な一歩です。増えた金額の内訳が「AI機能分」なのか「純粋な値上げ」なのかを分けて見るだけでも、次の判断がしやすくなります。
値上げのたびに乗り換えるべき?それとも自社システムに切り替えるべき?
単発の値上げなら乗り換え検討で十分ですが、「値上げのたびに一喜一憂する」状態が慢性化しているなら、自社専用システムへの切り替えを検討する段階です。
ここが、冒頭で「後半で説明する」とお伝えした注意点です。SaaSの値上げそのものは、1回だけなら乗り換えや交渉で対応できる問題です。しかし、複数のSaaSを組み合わせて業務を回している会社ほど、値上げは「単発」では終わりません。CRMも、勤怠管理も、会計ソフトも、チャットツールも、それぞれ独立して値上げのタイミングを迎えるため、気づけば毎年どこかのツールの契約更新に振り回される、という状態に陥りやすいのです。
この状態と、自社開発(フルスクラッチ)を比較すると、コスト構造の違いが見えてきます。
| 比較軸 | 複数SaaSの組み合わせ | 自社専用システム(フルスクラッチ) |
|---|---|---|
| 初期費用 | 低い(月額課金のみ) | 高い(開発費が先行) |
| ランニングコスト | 各社の値上げ次第で変動・増加しやすい | 保守費用は開発費の15〜20%程度で安定 |
| AI機能の扱い | ベンダー都合で強制搭載・値上げに反映 | 必要な機能だけを必要な分だけ組み込める |
| データの一元化 | ツールごとに分断されやすい | 業務データを1つの基盤に集約できる |
| 値上げリスク | 契約しているSaaSの数だけ発生 | 自社が保有するので外部要因による値上げがない |
初期費用・ランニングコスト・AI機能の扱い・データの一元化・値上げリスクの5項目で、複数SaaSの組み合わせと自社専用システムのコスト構造を比較する表
もちろん、すべての中小企業がすぐにフルスクラッチへ切り替えるべき、という単純な話ではありません。利用者数が少なく、機能もシンプルな業務であれば、SaaSの値上げを受け入れて使い続ける方が合理的な場合もあります。判断の分かれ目になるのは、次のような状態に当てはまるかどうかです。
- 契約しているSaaSが5個・6個以上あり、値上げ通知が年に何度も届く
- 各SaaSのAI機能をほとんど使っていないのに、AI搭載を理由にした値上げを毎回受け入れている
- ツール間でデータが分断されていて、手作業での転記・突合が発生している
- 業務フローが独自で、既製SaaSの標準機能では「帳票の項目が合わない」「承認フローが再現できない」といった不便を感じている
これらに複数当てはまるなら、個別のSaaS契約を見直すより、業務データを1つの基盤に集約する方向で検討する価値があります。実際に費用感や進め方を知りたい場合は、システム保守費用の相場やオーダーメイドシステムが法人価値を底上げする理由で、フルスクラッチ移行の具体的な費用感を解説しています。
乗り換え・自社開発、どちらを選ぶにしても失敗しやすいポイントは?
最も多い失敗は「値上げへの反発だけで動いて、移行後の運用設計を詰めないまま切り替えてしまう」ことです。
SaaSの値上げに腹を立てて別のツールへ性急に乗り換えた結果、「移行先も1年後に同じように値上げした」というケースは珍しくありません。SaaSである以上、ベンダー側の事情による値上げリスクそのものは形を変えて残り続けます。乗り換えを検討する際は、値上げ幅だけでなく、そのベンダーがどのくらいの頻度で価格改定をしているか、AI機能の搭載方針(オプションか標準搭載か)まで確認しておくと、同じ失敗を繰り返しにくくなります。
自社システムへの切り替えでよくある失敗は、逆に「最初から全部を作り込もうとして、費用も期間も膨らんでしまう」パターンです。今使っているSaaSの全機能を1対1で置き換えようとするのではなく、まず値上げの影響が大きい・データ分断の影響が大きい業務から段階的に移行する方が、初期費用を抑えながら効果を確認できます。
また、社内にIT担当者がいない状態で移行を進めると、要件が曖昧なまま開発会社に丸投げしてしまい、「思っていたものと違う」というミスマッチが起きやすくなります。この点についてはシステム開発の見積書の読み方で、発注時に確認すべき内訳を解説しています。
御社が今検討しているのが「1つのSaaSの値上げへの対応」なのか、「複数SaaSの慢性的なコスト増への対応」なのかによって、取るべき一歩の大きさは変わってきます。まずはどちらの状態に近いかを見極めることが、失敗を避ける近道です。
まとめ
この記事で持ち帰れること。
- SaaSの値上げが「AI機能標準搭載」を理由にしているかどうかの見分け方
- 契約更新前に確認すべき棚卸しの3項目(利用実態・重複契約・更新タイミング)
- 「乗り換え」と「自社システム化」のどちらを検討すべきかの判断基準
SaaSの値上げは今後も続く可能性が高く、AI機能の搭載競争が落ち着くまでは、この流れが逆戻りすることは考えにくい状況です。だからこそ、値上げの通知が来るたびに個別対応するのではなく、契約しているSaaS全体を俯瞰して「本当に必要な機能にお金を払えているか」を定点観測する体制を作っておくことが、長期的なコスト管理につながります。
まずは今日、経理や総務の手元にある直近1年分のSaaS請求書を並べて、値上げがあった契約に印をつけてみてください。それだけで、次に何を見直すべきかの優先順位が見えてきます。
複数のSaaSのコスト増や機能の分断に悩んでいる場合、業務データを1つの基盤に集約する自社専用システムという選択肢について、お問い合わせからお気軽にご相談ください。現状の契約状況をお伺いした上で、無料でお見積もり・ご提案いたします。
複数のSaaS契約が値上げのたびに積み重なる様子と、1つの基盤に業務データを集約した場合のコスト構造の違いを比較する図
よくある質問
Q. SaaSの値上げ通知が来たら、まず何をすればいいですか?
契約している全SaaSの利用実態を棚卸しし、標準搭載されたAI機能を実際に使っているかどうかを確認してください。使っていないなら、値上げ分は純粋なコスト増になっている可能性が高く、契約更新のタイミングでプラン変更や乗り換えを検討する材料になります。
Q. AI機能はオプションを外せば値上げを避けられますか?
多くの場合、外せません。SlackやSalesforceのようにAI機能を全有料プランへ標準搭載しているケースでは、AI機能を使わない設定にしても契約プラン自体の値上げは適用されます。オプション化されていない値上げには、個別の交渉かプラン変更、または乗り換えでの対応が必要です。
Q. SaaSを何個くらい契約していたら、自社システム化を検討すべきですか?
明確な個数の基準はありませんが、5〜6個以上のSaaSを契約していて値上げ通知が年に何度も届く、かつツール間でデータが分断されて手作業の転記が発生しているなら、検討する価値のある段階です。利用者数が少なくシンプルな業務であれば、SaaSを使い続ける方が合理的な場合もあります。
Q. 自社システムに切り替えれば、今後値上げの心配はなくなりますか?
自社が保有するシステムである以上、外部ベンダーの都合による値上げは発生しません。ただし保守・運用の費用は継続的にかかるため、「コストがゼロになる」わけではなく、「コストの見通しが立てやすくなる」と理解するのが正確です。開発費に対して保守費用は15〜20%程度が目安です。
Q. 乗り換え先のSaaSも将来値上げする可能性はありますか?
あります。SaaSである以上、ベンダー側の事業判断による値上げリスクは形を変えて残ります。乗り換えを検討する際は、値上げ幅だけでなく、そのベンダーの価格改定の頻度やAI機能の搭載方針も確認しておくと、同じ失敗を繰り返しにくくなります。
運営・編集